TWADの物語 Vol.1


■因果堂Type-I.G
■NScripter
■連作オムニバス・ノベルゲーム
■全年齢
■1000円
http://www.inga-do.com/

                             (2008.08.16)
▼概要・システム
ねずみ色の空を見上げ、自分について考える。
アルミ缶を集めた小銭でビールで身体を暖め、
降り始めた雪に身を震わせながら街を彷徨う。だがそれもわずかな間。
突然目の前が真っ白になり、身体がきしみ始め、ボクは意識を失った。
何者かにぶん殴られて目を覚ますと、そこには夕焼けの荒野を背にした少女が立っていた。
事情が分からず混乱するボクを前に、少女はいった。
「あなた死んだのよ」と……。

 突然の死を迎え、「死後の世界」で目を覚ました青年と、案内人を名乗る少女との出会いを綴ったノベルゲーム。選択肢がない一本道の短編もの。
 システムはNScript。基本的なシステムは取りそろっているものの、NScripter独自の仕様のためか、メッセージ表示を「瞬間」にしても瞬間表示にならないのは残念。
 タイトル画面はSTART、SAVE、LOAD、EXTRAの4つの項目があり、EXTRAではイベントCG閲覧とBGM、そしてユーザーレビュー用のサイトへのリンクがある。セーブ/ロード数は最大20。ゲーム中に右クリックをするとシステム画面へ移り、セーブ/ロードの他にBACKLOGとTITLE(タイトル画面へ戻る)がある。BACKLOGはマウスのホイールででも読み返すことができる。なお、ゲーム中に右クリックでシステム画面を呼び出した後ゲーム画面に戻るが、そこでもう一度右クリックするとシステム画面に戻らないバグのようなバグでないようなことが起きる(もう一度右クリックする前に一度でも左クリックを挟めば起こらない)。
 連作オムニバスと謳っている通り、プレイ時間はそれほど長くなく約1時間ほど。
▼シナリオ・テキスト
 死んだ人間だけがたどり着くという「死後の世界」。世界観がどうこうというよりは、そういう「おとぎ話」である、と割り切って考えてしまうのが一番しっくり来る。現実の世界で命を落とし、「死後の世界」にやってきた主人公の青年・クウは、目覚めたときに傍らに立つ案内人の少女・カヤと出会う。おどおどするクウは、カヤにさんざんなじられながら「死後の世界」について学び、やがてカヤの正体と自分に対する態度について知ることになる、というのが大まかなお話。
 いじめられ属性が極めて高い主人公と、トコトン主人公をなじりまくるツンデレのヒロイン、という構成が前編を通して描かれる。そして主人公は自らの真実を探るために旅に出てその答えにたどり着くのだが、その答えは人を選ぶと思う。筆者の感想で言えば、「うわ、この主人公サイテーだな」という結論に達する。ネタバレしないように書くと「キミとの約束を破ってゴメンね。でもボクは間違ってないよ。むしろキミの方が間違ってる。だから許してね」って感じ。人によってこれに対する感想は大きく異なるとは思うが、自分の中で「ダメだろう」という答えがでてしまった以上、面白いとは評価できない。また、全体的に作り手と読み手の「死生観」がコツコツとぶつかり合う部分があるので、その点でも作品との不幸なすりあわせがある可能性も示唆しておきたい(この辺についてはそれほどぶつかり合うことはなかった)。
 テキストは、今までの因果堂の作品とは少し違い、あまり癖がありません。ただ、物語上の重要な部分で売りともいえる部分(ある意味、決めゼリフといってもいい)は、何度も登場して連呼します。これはもう個性というか芸とするべきなのかもしれません。一方、恒例ともいえるくだらないギャグですが、今回は入ってません。そういう雰囲気じゃないしね。
 あまり癖のないテキストなので、読むことに対してのストレスは読んでいて面白いかと言われると、引き込まれるような面白さはありません。これはテキストというよりも、物語――主人公にどこまで共感ができるかというのが問題なのかもしれません。あ、あと読点がやけに多かったような気がします。
▼イラスト・グラフィック
 イラストは結構少なめで、ヒロインとなる少女の立ちグラフィックが数点。これについては、薄暗いテキスト部分を消すことができず、また黒い服装なので細かなところは非常に見えにくい。とはいえ手は抜いていないようなので、クオリティとしては問題ありません。ただひとつ気になるのは、こちらを覗き込むような仕草の立ちグラフィックで、顔は迫っている分大きくなっているのに身体のスケールがそのままなので、かなり違和感があります。
 イベントCGは13枚。主人公とヒロイン以外の登場人物は、大概これを使ってすませています。こちらもクオリティは問題ありませんが、やっぱり人物の頭と肩幅のバランスが少し気になります。また、テキスト部分を消せないということでゲーム中にイベントCGをちゃんと見ることができないため、普通の背景CGとさほど変わらない印象しか残りません。そういう意味では、イベントCGを活かせていないのではと思います。
 背景は普通のCG。荒野というか、荒廃した世界ばかりですが、悪くないと思います。
▼サウンド・SE
 曲は全部で7曲。全部オリジナルで、それぞれ単品で聞くには並って感じだと思うのですが、シーン似合っているかというと少しイメージが違うのでは、というところもありました。「カライロ」「永き時に誓って」がそれに当たるかな。どちらかといえば曲というよりも演出にかかる部分ですが、一本調子のままループする曲をただ流すよりも、手間はかかるがシーンにあわせてフェードアウト、フェードインさせるようにしたほうが活きるとは思います。
 SEはタイトル画面で項目をクリックした時のものと、作中で相手を殴られた時の2つぐらい。
 またオープニングとエンディング、ゲームを起動したときのサークルロゴはWMVのムービーとして収録されている。どれも左クリックで飛ばせます。
▼総評
 作者が言わせたのか主人公が言わせたのか、どちらが主となったセリフかは分からないが、物語のクライマックスを飾る主人公のセリフが「個人的には極めてダメ」なので、個人的には他人にお勧めできる作品ではない。これは個人の趣味という点だけでなく、そのセリフを吐くまでの課程にこそ問題がある。たとえば、問題のシーン至るまでの主人公の人生をプレイヤーが追うことができ、それの後に「死後の世界」にて「物語のクライマックスを飾る主人公のセリフ」に辿り着けられたのならまだ分からないが、その過去についてはキャラクターたちの口を通してさらっと語られるだけなので感情移入もへったくれもない。短編という制約はあるが、たとえプレイヤーが物語の結果に納得がいかなかったとしてもそこに至らせる「説得力」が欲しいと思う。
 この『TWADの物語』は「Vol.1」と書かれている通り、短編集の1つめということになる。筆者としてはそりの合わない作品だったが、短編であるためこの先に発表される作品とそりが合うかどうかは分からない。まぁ、ケチは付けたが、それはあくまで「Vol.1」のみについて、ってことで。また、死と人生についてネチネチと余計な説教を喰らうような気分にもなれるので、大きなお世話だって人もプレイしない方が精神衛生上よろしいかと思う。
 作品についてはこれ以上突っ込むトコロはないが、「最初の人間」と「人間の始まり」がどう設定されているのか興味アリアリです。今後、明かされていくのかもしれませんけど。
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