トモシビはいつ消えるのか 〜白の少女〜

■アンチョビプリン
■吉里吉里2
■ビジュアルノベル
■全年齢
■500円
http://blog.livedoor.jp/anchovy_purin/

                                 (2009.12.17)
▼あらすじ
1997年、突如世界中で発症した「転死病」。
何の前触れもなく突然死に至るこの病は、世界を恐怖に陥れた。
原因も治療法も見つけることはできず、各国は特別区を設けて患者を隔離することしかできなかった。やがて研究が進み、伝染性が無いことが判明したことで特別区は解体されていく。

旧横浜特別区。
かつて、日本最大の特別区だったこの街に一人の青年が降り立つ。
養父の命を受け、ある花屋を訪ねた青年は、そこで母を亡くした少女と出会うのだった。
▼概要・システム
 かつて世界中を恐怖に陥れた「転死病」。かつてその病の最大の隔離地区であった旧横浜特別地区にやってきた青年が、「転死病」を巡る数々のトラブルに見舞われるビジュアルノベル。
 システムは吉里吉里2。全画面にテキストが表示されるタイプの一般的なビジュアルノベル。ウィンドウのメニューバーにはオプション系のコマンドは表示されていない。
 タイトル画面のメニューは、「初めから」「つづきから」「設定」「終了」の4つ。「初めから」は最初からのプレイ。「つづきから」はロードしてプレイ再開。「設定」はウィンドウ/フルスクリーンの切り替え、メッセージスピード設定、オートモード時のスピード設定、フォント変更、BGM音量設定、SE音量設定ができる。このなかでフォント設定に微妙な不具合があり、設定しても『ここに表示されるフォント名』は変更されず、設定メニューを閉じて初めて設定される模様。「あれ、フォント変更したはずなのに?」ということになるので、この不具合は直してほしい。「終了」はゲーム終了です。
 ゲーム中は右クリックでメニューが表示されるタイプ。表示されるメニューは、「戻る」「セーブ」「ロード」「エクストラ」「バックログ」「文字非表示」「タイトルに戻る」の7つ。見て分かるメニューは省かせてもらうとして、「エキストラ」はゲーム中で知った人物やことがらを読み返すことができる機能。内容は一枚絵を鑑賞できる「アルバム」、事柄や事件を閲覧できる「メモ」、出会った人たちのプロフィールを閲覧できる「人物」の3種類。これらはストーリーが進むに連れて増えていき、またすでに追加された事柄に内容が追記されることもある。便利といえば便利な機能だが、追記される以外にストーリーを進める上で何かの仕掛けがあればなとも思う。特定のタイミングである人物を選択するとエラーがでたが、どうやら先日出たパッチで解消したらしい。また、画面左下には「メニュー」「スキップ」「自動」「バックログ」「X(文字非表示と同じ機能)」の5つのメニューアイコンがあり、クリックすると機能する。
▼シナリオ・テキスト
 養父の指令で横浜にある花屋に下宿することになった青年。街で数日をすごすうちに「転死病」に関わる事件に巻き込まれていく。主人公の養父は国会議員で、主人公は養父からの命令を受けて調査や工作などを行うエージェントみたいなことをしています。エージェントみたいなことをしているとなれば、それ相応の知識はありそうだし、刑務所に放り込まれたりアラスカに放置されたりしているため体力もかなりありそうな感じです。そんな彼が花屋の雑用をちょっと手伝っただけで疲労困憊したり、全然頭回ってなかったりとかなりムラがあります。なんていうか、シナリオの都合で強くなったり弱くなったりしている感じ。
 ストーリーは基本的に一本道で、たまに選択肢があります。現状では選択肢によってストーリーが大きく変化するということはないようなのですが、分岐後に合流した際に選んでない方のルートの話をされて「は?」というところがあります。ライター複数なのかなと思いましたが、一人でも複数でもその辺りの整合性は取って欲しい。なお、ラストに「To Be continued…」と表示されてゲームが終わります。パッケージにもreadmeにも書いていませんが、これ1本で物語は完結しません。終わらないなら終わらないで、どこかに一言入れておいて欲しい。
 テキストは特にどうこうという所はないが、一画面上に出る量が多い。もうちょっと減らすなり、少し文字を大きくして行間をあけてもいいのではないかとも思う。それと選択肢が他のテキストと混ざりやすくて分かりづらい。現状でも本テキストから数ライン分下げられてはいるが、「【選択肢】」という選択肢の表題? も一緒にさげるなどして、これが(これから下が)「選択肢である」ことを一目で分かるようにした方がいいと思う。ボリュームは大体2時間半から3時間というところかしら。
▼イラスト・グラフィック
 キャラクターのデザインは特に問題がないレベル。立ちグラフィックには表情差分なども結構あるし、まずまずではないかと思う。ただ、イベントCGの方にちょっと問題あり。同じキャラクターのはずなのに、立ちグラフィックとイベントCGとでは同じに見えないようなものがあります。というか、イベントCGごとに微妙に違う絵柄にも見えるので、シナリオ同様、こういうところもちゃんと調整・統一を図って欲しいと思う。なお、右クリックメニューの「エクストラ」内「アルバム」で見たことのあるCGを閲覧することはできますが、最後まで遊んでも完全に埋まることはないようです。もしかしたらパッチ当てたせいかもしれません(パッチ当てる前のセーブデータだと表示されてませんでしたが、パッチ後その部分をプレイしなおすと登録された)。
 背景はCG。フリー素材を使用しており、クオリティはまちまち。何ヶ所か「えーここにこの背景はないだろー」というのもありますが、それ以外は特に問題はないと思います。
▼サウンド・SE
 曲はサークル内で作られているみたいです。プレイの邪魔にはならないという点では問題ないと思うのですが、個人的には「ん? んん?」というところも。いくつかの曲は、主旋律の裏で流れているメロディが耳に付く……というか「あれ、なんか別のゲーム立ち上げてたっけか?」みたいな印象があります。曲が悪いというのではなく、なんか別のものもイメージしてしまい気が散るというか。
 SEはフリー素材のようです。あまり頻繁には使われておらず、印象は薄いです。
▼総評
 なんだか色々とツメが甘い感じ。
分岐による事象の変化や立ちとイベントCGの絵柄のバランスの不統一、描かれ方が不安定な主人公など、もう少しきっちりとまとめればいいのになと思います。特に主人公は、よくある状況(ストーリー)に流される不安定さというよりも、作家の都合での不安定さという印象が強く、どうにも感情移入がしづらい。
 小うるさい女の子のセリフが長くてちょっとうざいなーというところはありますが、そのほかの面ではほどほどのクオリティをもつ作品です。ただ、声を大にして文句を付けるとすれば、これ一本で完結していないということです。完結していないこと自体はかまわないのですが、それについて明記していないこと(正確には書いてあるけど、分かりにくい書き方だと思う)が問題だと思うのです。「一章」でも「前編」でも何かしら付けておいてくれれば「あーこれで完結はしないのね」と心の準備ができますが、遊んでいるところに「To Be continued …」と出てこられても、どうしようもありません。ゲーム頒布後もその点について何も書かれていないので、ちょっとそれは酷いんじゃないかなとも思います。興味ある人は、完結はしていないということだけ心に留め置いて欲しいと思います。ここまで作ってあるのでそうそう頓挫することはないと思いますが、続きは気が向いたらというところかな。

 あと非常に個人的な感想になるのですが、フィクションでありながら現実の土地を舞台にしているため、どうしてもその土地をイメージしながらのプレイになってしまいます。「横浜にこんな場所はねぇ」「おいおい、駅の北口とかどこだよ」みたいなツッコミを入れながらのプレイになるため、どうしても没入感が阻害されるというか、イマイチゲームにのめり込めません。横浜が隔離されたのがゲーム内年で1997年。そこから独自の発展を遂げたとしても、「横浜」の名がある限り当時、または現在の様子と比べられて違和感を覚えられてしまうのならば、オリジナルの街を舞台にする、または現実の土地を引き合いに出して新たな街を作ってしまった方がよかったのではないかと、端っこながら横浜市民の私は思います。
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