打撃戦艦アルテミス C75

■circumflex
■オリジナルシステム
■SRPG風味ウォーシミュレーション
■全年齢
■300円
http://circumflex.halfmoon.jp/

                                 (2009.08.13)
▼あらすじ
 いまから遠くない近未来、人々は地球から宇宙へと活動範囲を広げていた。
手始めに入植された月は、そこから火星や木星へといった太陽系の各惑星に向かうための中継地点として栄えていった。その発展は中継地点という存在意義だけでなく、厳しい環境下で入植を進めていった初期の月市民の努力の証でもあった。
 だが、彼らの努力が無に帰す、とまでは言わないが脅かされる事態が起きる。
地球における軌道エレベータ建築計画である。
これまでに比べ、安価で大量の輸送を可能にする軌道エレベータにより、宇宙進出の窓口であり中継地点だった月の存在は大きく減退してしまう。
そのことに危機感を抱いた月では、日ごと反地球の市民運動が活発となり、やがて流血事件をきっかけに人類初の星間戦争、月独立戦争が勃発することになる――。

開戦から3年、その戦火は未だ止まることなく、宇宙に生命とデブリを撒き続けている。
▼概要・システム
 月の独立をかけて地球軍の艦隊と戦う戦術シミュレーション。かなり歯ごたえのある内容となっている。この体験版では、チュートリアル的なフリープレイ12面をプレイすることが可能。各面をクリアするごとにロックが外れ、新たな面がプレイできるようになる。本編は9面で、残りの3面はエクストラマップとなっているが、難易度はかなり高い。
 システムはオリジナルで、大きく分けてアドベンチャーパートとシミュレーションパートの2つのパートで構成されている環境設定部分についてはまったく実装されていない。よって、ウィンドウは800x600で固定。メッセージスピードも一定で変更はできない。

 ゲームのモードは、キャンペーンモードとフリーマップモードの2つがあるが、この体験版ではフリーマップモードのみプレイできる。キャンペーンモードでは、シナリオに沿ってプレイを進めていくことになるようだが、艦隊や指揮官にレベルという概念はなく、SRPGのように強くなって無双できる、ということにはならないらしい。経験値という概念のない『ネクタリス』みたいなものか?

 アドベンチャーパートは、背景とキャラクター、そして画面下部のたメッセージウィンドウ内にテキストが表示され、テキストの左には話しをしているキャラクターが表示されるという、ごく普通のアドベンチャーゲームと同じレイアウトだ。変わったところといえば、画面右上にスキップボタンがあり、これをクリックするとアドベンチャーパートを飛ばしてシミュレーションパートに移行する。

 シミュレーションパートは、編成、マップに配置、プレイ開始と、実際にマップをプレイするには3つの段階を経る必要がある。マップはクォータービューで、マスは四角。
 編成は、得た資金を使って艦の購入や武装の交換などを行うことができる。キャンペーンモードでは、前マップの成績によって得られる資金に差が出そうだ(フリーモードでもマップクリア後のリザルトで得られる資金が表示されるが、それは別のマップ攻略に影響することはない。)
 編成を終えたら、次に艦をマップ上に配置する。配置できるエリアはあらかじめ決められており、その範囲内とマスの数だけ艦を配置することが可能。この際、艦の向く方向も指示することができる。配置の時に敵艦隊の場所も把握できるが、この時点でマップクリアの条件が提示されていないので、味方艦隊の配置に役に立たないのが残念。なお、マップ画面で右クリックを押したままマウスを動かすと、マップをスクロールさせることができるのだが、マウスを動かした方向へ自動で動いてしまうので少々使いづらい。個人的には、画面をつかんで動かせる方が使いやすいのではないかと思う。
 味方艦隊を配置すると、クリア条件が表示されてプレイ開始となる。ゲームシステムはリアルタイムシミュレーションに該当し、「プロット指揮システム」と名付けられている。このシステムのポイントは「プロット」にある。マップ開始後に各艦に行動(移動、回頭、攻撃など)を指示することになる。指示できる数に制限はなく、例えば「移動x6マス、攻撃、攻撃、右回頭、移動x3マス、攻撃、攻撃」という「行動プロット」を設定すれば、「基本的に」それに沿った行動を行う。ただし、それぞれの行動に必要な時間が決められているため、敵の行動を予想した上でプロットを設定することが重要となる。もちろん行動設定後にそれを中断させて新たな指示を出すこともできるが、その場合は一時的に行動不能になってしまう。なお、「基本的に」と書いたのは、移動時に敵または味方艦に進路妨害をされると、その場ですべての行動プロットがリセットされ行動不能になるからだ。ならば少ないプロット設定でこまめに指示をだせばリスクが減る、ということになるのだが、実は長いプロット設定にもちゃんとした利点がある。それが「指揮ポイント」だ。「指揮ポイント」は、各艦がプロットを遂行したことにより加算されていくポイントで、設定したプロットが長ければ長いほどポイントを得られるチャンスが増える(新規プロット入力時に0になるため)。得られたポイントと引き替えに支援砲撃や敵指揮系統の混乱、敵の行動予測などが行えるようになるため、指揮ポイントはクリアの鍵を握るポイントでもある。この「プロット指揮システム」を楽しめるかどうかが、このゲームを楽しめるかどうかの分かれ目だろう。
 そのほかの部分で他のシミュレーションと大きく違うところは、ZOCがないこと、そして味方の艦をすり抜けられないこと(味方艦に進路をふさがれると、移動停止となる。ただし、攻撃時、敵艦との間に味方艦がいてもフレンドリーファイアにはならない)。特に後者は、ゲームの難易度を上げるのに大きく貢献している。
▼シナリオ・テキスト
 この体験版ではフリープレイモードしかないため、全体的なストーリーは何も語られていない。それについては、サークルサイトに行った方が早い。ただ、マップ攻略前のアドベンチャーパートで、多少世界観(というよりこの戦争の現状)が多少なりとも語られている。シナリオは、キャンペーンモードで語られることになるのだろうが、この戦争が終わるまで描かれる可能性は五分五分というところではないかと思う。
▼イラスト・グラフィック
 キャラクターイラストは、線が細くひょろっとしている。マンガ絵のように目が大きくなく比較的リアルな顔立ちだが、鼻が穴の部分しかないので少々のっぺりした印象がある。立ちグラフィックの差分は少数アリ。塗りについては、体験版では時間の都合上でべた塗りなのかと思ったが、サイトのキャラクター紹介でも塗り具合は同じなので、これで完成したものなのかもしれない。個人的には許容範囲内だが、もうちょっとクオリティが高いと嬉しかった。
 シミュレーションパートのグラフィックは、主に艦のグラフィック。自軍艦の色はベースが白なので、宇宙空間(マップ上)でも視認性はいい。だが、敵軍艦のベース色は黒なので、視認性はすこぶる悪い。HPゲージのおかげで見失うことはないのだけれども、パッと見で分からないのは少しマイナス。艦自体のデザインはシンプルだが、これ旗艦? とか砲撃得意そう? なんていう感じが見た目からわかるので、十分要を満たしていると思う。味方艦限定だけれども(苦笑)。
▼サウンド・SE
 曲はタイトルで1つ、アドベンチャーパートで2、編成画面で1、シミュレーションパートで2曲の計6曲が使われている。タイトルの曲は無機質な感じとクラシックを混ぜたような曲、アドベンチャーパートは少し明るめなジャズっぽいもの、編成画面は重厚でプレイヤーを鼓舞するような曲となっている。シミュレーションパートの2曲は、おそらくシナリオ上前半の曲と、後半の曲になっているのではないかと思う。1曲目はいわばマーチのような感じでプレイヤーの背を押し進めるような勢いが感じられる。2曲目の方はといえば、「圧倒的な力で勝利は近い」とも「非常に劣勢で危機溢れる」とのどちらにも取れる緊張感のある曲となっている。戦闘時の曲はもう2曲ぐらいありそうな気がするが、現状では2曲目はかなりいい。燃える。あ、でも曲のループは結構短め。
 SEはボタンクリック時や決定、キャンセル時に使われている。SFということもあってか、全体的に機械的な音となっている。
▼総評
 正直にいうと、かなり難しい部類のシミュレーションゲーム。
マニュアルには「既存のSLG、SRPGとの違い」と称してシステムの説明をしているが、少なくともコンシューマのSRPG(無難なところで『ファイアーエムブレム』や『スーパーロボット大戦』シリーズ)をイメージして遊ぶと、絶対に投げる。最悪、力押しでなんとかなるようなシロモノではなく(条件付きならば力押しも可能だったが、完成版のキャンペーンでそれが可能かどうかはわからない)、敵の動きを理解してある程度の戦術を構築しつつ臨機応変に対応しなくてはならないからだ。それ故にマップをやり直す回数も1、2度ではすまず、最低でも3回以上は試して戦術を練ることになるのではないかと思う(最適な艦隊の編成から配置、敵の動きを覚えると早くてもそれぐらい)。それだけにクリアしたときの気分は格別の達成感を味わうことができるだろう。
 だがそれはゲームシステム部分という一面だけであって、ゲームすべてに対する評価ではない。シナリオはともかく、インターフェース部分には使いづらい点が多々ある(メッセージウィンドウ上にカーソルがないと文字送りができない・マップ画面でマップを移動させづらい・武装変更画面での武器の射程が分かりづらい・艦隊編成時にマップクリア条件が分からず、編成のメドが立てづらいetc)。そういった点から遊びづらいと感じるプレイヤーもいるのではないかと思うが、すでにマスターアップしているので現状は不明だが、より遊びやすく調整されていることを期待したい。

 攻略本片手にさっくりプレイでお手軽に楽しいというタイプのゲームとは対極に位置するゲームで、お世辞にも良いとはいえないインターフェースでクリアのために幾度もの繰り返しプレイに耐えられる古強者のシミュレーションゲーマー向けの逸品。SF好きでシミュレーション好きならば、ぜひチャレンジして欲しい。とりあえずこの夏ではイチオシの作品です。
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