THE MAN CALLED CRIMSON -Episode1-
量子コンピューターの少女 〜Trial Edition〜

■因果堂Type-I.G
■NScripter
■連作フューチャーオペラ
■全年齢
■もらいものなので不明。1000円ぐらい?
http://www.inga-do.com/

                                 (2003.02.09)
▼概要・システム
 謎の組織「A」に殺された恋人の仇をとるため諜報機関に身を置いた男と、「A」から脱走した量子コンピュータを操る少女を描いたアドベンチャーゲーム。

 システムはNScripter。ゲームのシステムは、画面下部にあるメッセージウィンドウに文字が表示される一般的なアドベンチャータイプです。メッセージウィンドウの左にキャラクターのフェイスウィンドウ、上部に話しをしているキャラクター名を表示するウィンドウがあり、誰が話しをしているかがわかりやすい仕様となっています。その場面の視点となっているキャラクター(=プレイヤー)は、立ちキャラクターとして画面に表示されません。基本的には主人公視点でストーリーが進行しますが、一時的に他のキャラクターに視点が移ることがあります。
 右クリックで表示されるシステムメニューは、セーブ、ロード、バックログ、タイトルへ戻る、と基本的なものだけで、その他の機能はウインドウのツールメニューで行います。システムメニューは、昔懐かしいコンピュータの画面っぽいものをイメージしたフォントのためか非常に見づらいです。フルスクリーンだからなのかとウィンドウ画面に戻してみましたが、多少マシにはなった程度でした。メニュー項目自体は少ないのでどれがどの機能かは少し考えれば分かりますが、直感的には分かりません。元々そういうフォントなのか、もしくは四角? を使って創りあげた文字かは分かりませんが、せめてもう少し視認しやすくすべきではないかと思います。もうフォント? を少し小さくするだけでだいぶ変わるんじゃないかなぁ。また、システムメニューやマウスのスクロールボタンでメッセージのバックログを見ることができるのですが、対応しているのはメッセージだけなので、誰がそのセリフを話したか分かりにくい。バックログを表示する際は、名前かフェイスウィンドウも一緒に戻るような仕様にしてもらえればと思いました。

 すでに夏コミ向けにマスターアップは終えているようで残っているかどうかは定かではありませんが、この体験版には1つバグがありました。メッセージウィンドウに表示されている1メッセージにつき、1度しか右クリックでのシステムメニューが表示できないというものです。左クリックでテキストを進めれば表示されるようになるので(もちろん1回だけですが)、実害はほとんどありませんが、ずいぶんと珍妙なものでした。
▼シナリオ・テキスト
 物語の舞台は2045年という、微妙な近未来。5年前、テロのようなもので恋人を殺された主人公、クリムゾン(本名:シュヴァルツ・カント・焔)は、日本の諜報組織「ゐん」に所属しながら復讐の機会を待っていた。その尻尾のひとつをつかみかけたところで、クリムゾンは不思議な力を発揮する少女、栗須翠と出会う。

 イベントで頒布された体験版(CD版)はEpisode1の3章まで、ネット版の体験版は2章までですが、どちらも後への引きに関して言えば、ちょっと弱いかなという感じです。シナリオ面でいえば、章で分けるほど、CD版とネット版の体験版には差はありません。
 プレイ時間は約1時間半。Episode1ということもあってか、全体的にプロローグというか、舞台やキャラクターの紹介的な感じが強い。それでいながらある程度主人公が活躍するシーンなどもあり、エンターテイメントとしては、あまり文句を付けるところはありません。
 ただ、選択肢がほとんど潰されており、シナリオがどう展開していくかは保留といったところです。元々、同サークルで出版してる同名の小説のゲーム化といった趣のあるタイトルなので、選択肢はあれども物語の分岐はなく、おまけ程度のものか、あるいはバッドエンドへの選択用のものなのかもしれません。なお、生きている選択肢は、風呂場を覗きに行くか行かないかの部分です。ええ、そりゃもう試されているのかと思うぐらい執拗なまでに選択肢が続きます。

 テキストは、ちょっと読みづらいかな? といった程度。ですが、たとえの部分(「○○のような〜」の「○○」)が少々マニアックなところや、近未来が舞台でありながらちょっと現在に捕らわれ気味のところが微妙といえば微妙。あと過剰な表現や言い回しの多用も、相変わらずだなぁといったところでしょうか(苦笑)。ただ古い話ではありますが、『夢剣』の時に感じていたものすごく寒いギャグとかはあまりないので、アレで引いていた人でも普通に読み進められると思います。それでも独特なところがあったり、体現止めがたくさんあるので、お世辞にも「万人に向けで読みやすい」とは口が裂けても言えません。
▼イラスト・グラフィック
 キャラクター関連については、デザインや塗りともにまったく問題はありません。ほんのちょっぴり(特に野郎どもは)劇画チックというか彫りが深く、そこに入るシャドウやラインなどものせいか黒い印象です。それでもまぁ、世間的に見ても許容範囲だと思います。キャラクターグラフィックに関しては、立ちグラフィックが1人につき数点と、フェイスウィンドウ用の顔グラフィックが多数使われています。フェイスグラフィックは立ちグラフィックの流用から完全に別ものまであり、パターンは豊富です。だからといって感情表現をフェイスグラフィックにだけ頼るのではなく、立ちキャラクターの方でもある程度表現しています。そういった点から見ると、かなり贅沢な感じです。イベントグラフィックは数点あり、そちらのクオリティも問題ないと思います。
 飛行機や車、武器などは3Dモデリングで描かれたものが使われています。それぞれを説明するシーンのほか、飛行機は空を飛んでいるシーンでなどで使われています。手榴弾のモデリングが固すぎでエッジ立ちすぎじゃね? とか、瑞雲の尾翼付近のモールドのテクスチャちょっとズレてない? とかはありますが、基本的には問題ないと思います。ただ、ビートルは、いくら車体が黒とはいえ、モデリングしたものをただモノクロにしただけっぽく見えるのが気になります。本体をグロスにしてランプやシートなんかにちょっと色を付ければ、だいぶ印象が変わるんじゃないのかな。
 背景はCGと3Dモデリングで描かれたものの併用です。某所で色々あったところから察するに、フリーのモノを使うのではなく分散して発注しているようです。CGの方はそれほど問題はないと思いますが、港上空の背景だけはちょっと違和感あります。遠くは広角なのに手前は標準と魚眼の中間みたいで、バランスが悪いといえばいいんでしょうかね。3Dモデリングで作られた背景は、角やエッジ部分に黒でアウトラインを引いて輪郭を強調しています。ないものに比べれば遙かに見やすく単調さやチープな感じは減ってますが、それでもやはりCGに比べて物足りなさを感じます。
 3Dモデリングで作られた背景は、なるべくマットな感じに押さえてCGの色調に近づけている感じはしますが、それでもやはり質感の差はあります。致命的ではありませんが、統一感という意味では気になるところではあります。
▼サウンド・SE
 曲は26曲。クオリティ的には問題ないと思いますが、なんというか懐かしい感じです。90年代PCアドベンチャー的な薫りがするとでもいえばいいのでしょうかね。ジャズっぽい曲は好みかな。
 SEは41個。フォルダ分けされてるので、チェックが楽です。はい。サウンドに比べて、若干ですがこもっているような感じがあります。それ自体は特に問題ないのですが、サウンドの質とSEの質の部分の差が、作品の「音」部分のバランスをちょっとだけ崩しているようななんともいえない違和感が残りました。サウンドの音が立派すぎというかなんというか、明確な答えが出せずにすいませんなところですが。
▼総評
 いつもの? (・∀・)節が炸裂したテキストとはいえ、以前読んだものよりは読みやすくなっているし、グラフィックやサウンドの部分から見ても、悪いところは見られません。作っているのが(・∀・)であることを差し引いても、体験版の中では良くできている方ではないでしょうか。個人的には「なんだSFじゃないのか」ってな言いがかりの1つもつけたくなるところで、それ自体はマイナスにはなりませんけれども積極的にはどうなんだろうか、という感じです。

 それでも作品として見れば問題はありませんし、普通に楽しめる一品ではないかと思います。まぁ、人間性やテキストの相性の問題で「気にくわない」という方以外なら(シリーズとしては新シリーズなので一見さんでも、たぶん大丈夫……なはず)で金を突っこむ余裕があるなら、夏の完成版に手を出してみてはどうでしょうか。

 ただ一つ、注意を喚起しておきたいのが「これはSFとしては見ないほうがいいかも」という点です。
 作品のどこにも「これはSFだ」とは書いていません。が、都合のいいところだけを抜き出してなんですが、「近未来」と「量子コンピュータ」ときたら、「こいつぁハードSFか!?(別にハードじゃなくてもいいんですが)」とマニアな思考を持った人は思うに違いありません。作中でも語られていますが、確かに「量子コンピュータ」は、理論上(当然、現時点で実用化されていません)無限に近い計算能力を持つだろうと言われていますが、ヒロインの翠のような力を発揮することはできないはずです(理屈の上でどうやって力を発現させているかの想像はつきますが、それでも無理がすぎる。暇な人はWikipediaで調べてみてはいかがでしょうか)。
 フィクションだからと言われればそうですし、「量子コンピュータ」が実用された際にそれが計算機「以外」の能力を持たないとは言い切れないので怪しい指摘ではありますが、タイトルを見て「SFだ!」とは思わず、「近未来を舞台にしたファンタジーだ!」辺りで考えていた方がいいと思います。

 まぁこのゲームの舞台の「近未来」も何とも言えない微妙そうな雰囲気が漂ってるしなぁ。テキストで「タイガーウッズが〜」とか出てきた時には「全然未来じゃないじゃん」などと思いつつ、よくよく考えると『この時代のタイガーは70歳だから、シニアゴルフで活躍しててもおかしくないんだよなぁ』とか。ガキの頃に見た「21世紀の未来」のイラストは、現実の21世紀にはほとんど実現してないし、そういう意味では、夢がないけどリアルな未来像かもしれないと思ってしまっていたりします。はい。
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