夢を確かめる 体験版2

■ヤプシ街道
■NScripter
■ビジュアルノベル
■全年齢or18禁
■無料配布
http://yapushikaido.main.jp/

                                 (2010.08.31)
▼あらすじ
ひょんなことから手に入れた「夢たしかめ機」。
夢をいつでも確かめ直すことができる不思議な機械。
そして現実を夢に置き換え、何度でも現実をやり直すことができる機械。
たびたび後悔する今日この頃、ふとそれを使ってみることにしたのだが……。
▼概要・システム
 「夢たしかめ機」なるものを手にした主人公が、試行錯誤しながら未来を切り開いていくビジュアルノベル。ひとつの物語ではなく、3編のオムニバスとなっている。プレイ時間は、3編全部遊んで20分ぐらい。
 システムはNScripter。基本的な所はデフォルトのままっぽい。ツールバーにリセットが入っているぐらいかな。セーブ/ロードはできます。
 このソフトのタイトルでもあり、また物語のキーとなるアイテムでもあり、システムの根幹ともなっているのが「夢をたしかめる機械」だ。システムとして表現する場合は「YTI(Yumewo Tashikamezuniha Irarenai)システム」となっている。
 この「YTIシステム」は、便宜上大小の2つに別れているらしい。実質的にメインとなりそうなYTI小システムは、その日のみに影響するもの。物語の途中で表示される選択肢は、片方が黒く、もう片方が黄色くなる。基本的に黄色い方が「間違ったor残念な未来」へと進むことになる選択肢となっており、しばらく進むとテキストの最後に「戻る」という選択肢が表示される。これをクリックすると、直前の選択肢まで戻ることができる。つまり、「間違った選択肢を選んでもゲームオーバーにはならない」。戻ったところで正解である黒い選択肢を選べば、正しいストーリーを楽しめるというワケだ。また、黒い選択肢をクリックした場合、しばらく間違っている黄色の選択肢もある程度の時間(正確にはページが切り替わるまで)表示されているので、そこで黄色い選択肢をクリックして別のルートを見ることもできる(もちろん、それは間違ったルートなのであとで「戻る」ハメになる)。
 大の方は、その日ストーリー上で何か条件を満たすと次の日に進めるようになる、といったもののようです。チュートリアルでは「後日の出来事を確かめる」となっていますが、体験版では大YTIシステムは実装されていないので、「確かめる」ことと「ストーリーが進む」ことが同じ意味なのかどうかちょっと分かりません。
 体験版で実装されているのは小のYTIシステムのみなので、システムの真髄を図ることはできませんが、触ってみた感じでいえば「エロゲーなどでよくあるルート誘導or正解の選択肢を表示するシステムを超簡略化させたもの」といったところでしょうか。セーブ/ロードを繰り返さずに済むとのこと触れ込みですが、その点にそれほど魅力は感じません。
▼シナリオ・テキスト
 収録されているストーリーは高校生、大学生、社会人が主人公となっている3編で、それぞれにヒロインが設定されている。チュートリアル後にストーリーを選ぶことができる。どれもボリュームはなく、完成度についてはどれも同じ程度に低い。
 高校生編は、マンガを書いてみたいと同級生の明歩谷さんに相談され、それに答えていく主人公のお話。
 大学生編は、サークルの飲み会を途中で抜けてきた主人公と同級生・今子のお話。
 社会人編は、鬱ぎみの主人公とクールで排他的で優秀な菜乃とのお話。
 どのシナリオも主人公については何も語られてはおらず、ぶっつけ本番で理解して行かなくてはならないため、ストーリーに慣れるのに少々手間取る。蛇足だが高校生編と大学生編の主人公の名が同じ田宮なので、もしかしたら社会人編の主人公も田宮なのかもしれない。
 シナリオの話に移るのだが、その内容についてはシナリオそのものと、YTIシステムの2つに分けて話を進めていきたい。

 まずシナリオ本体についてだが、個人的にはかなり苦痛だ。女の子の前で少々舞い上がってしまい照れ隠しを含めて延々とくだらない話を繰り返す高校生編と、まるで自分だけが被っているかのような社会人の悲壮を延々とループする社会人編は、特にイラっとくる。大学生編でも多少、そういった兆候があるが、こちらはループの回数が2回だけであるため免れているだけな感じだ(ループについては後述)。少なくとも、読んでいて楽しいと思える物語ではないと思う。

 もう一点のYTIシステムについてだが、どのシナリオもこれが絡んでくる。どう絡んでくるのかと言えば、主人公がその機械を認識することでその日をもう一度繰り返す、すなわち「同じ日をループする」ことになる。ループした時点で前のループで行なわれていたことは主人公のみならず状況的にもある程度終わったことであるため、その部分を端折ってその回のストーリーが継ぎ足されていく。同じ日常を繰り返さなくてもいい反面、勝手に物語が進んでいくためプレイヤー不在となるのが不満でもある。そして個人的にもうひとつ不満なのが、同じ名前でありながらまったく違うYTIシステムそのものだ。これは勘違いというか、多少言いがかりに近いモノではあるのだが、YTIシステムというゲームのシステムとシナリオ上で同じ効果を持つものでありながら、プレイヤーが干渉できるのは選択肢についてだけでループについてはまったく干渉できないのはシステムの看板に偽りアリ何じゃないかってことだ。正直なところ、ループに関わらせろとは別に思ってないのだが、よくよく考えるとストーリーの構成とシナリオ(というか前提となるテーマ)みたいなものが噛み合ってない気がする。能動的な干渉によりやり直したい現実を夢に置き換えて新たな未来を進むという物語でありながら、実際の構造は○日1回目→○日2回目→○日3回目……といった一直線であり、その中に現れる選択肢もシステムによりバッドエンドが絶対に回避できるため、ゲームしてるという感じには到底なれない。大YTIシステムが実装されれば途中経過のフラグにより次の日に進めるとのことだが、言ってしまえばエンディングへのルートが開いたのと同じようなもので、特筆するようなことではないのではないかと思う。

 テキストについては、前述の通りあまり読んでいて楽しいモノではない。また、テキストの表示もおそらくデフォルトのママなので、画面一杯に表示されるため多少読みづらいというかせせこましい感じがする。フォントの大きさやテキスト表示量など少しいじった方がよいのではないだろうか。また、時折驚きの表現などとして大きいフォントで文字を表示することがあるが、インパクトはあんまりない。エフェクト込みなどで使った方がいいのではないだろうか。
▼イラスト・グラフィック
 キャラクターグラフィックは、ヒロイン3人に白衣を着たマッドサイエンティストな野郎がひとり(高校生編のみ)。野郎は別にして、どのヒロインも悪くなく、表情も豊富でいいと思う。高校生編のみ、イベントグラフィックが1枚ある。さらに、クリア後に出てくる「おまけ」モード内に今子と菜乃のイベントグラフィック各1枚を見ることができる。多少、背景と差はありますが、イベントグラフィックについても問題はないと思います(もちろん、イベントグラフィックの背景はCG)。
 背景はすべて写真にエフェクトをかけたもの。エフェクトは弱めなので、輪郭というかディティールは結構はっきりしています。背景写真はフリー素材のもののようです。あ、それと一部でジョジョ的に背景に「ゴゴゴゴゴゴゴ」などの文字が表示される演出があるのですが、実写でそれをやられてもちょっと冷めるというか、文字を表示させるために常に暗めになっている画面でそれをやられても演出文字が沈むなといった感じなので、使うにしても使わないにしても一考が必要だと思います。
▼サウンド・SE
 サウンドもフリー素材からチョイスして使用しているようです。
 SEもフリー素材からの使用のようですが、こちらはかなり細かい部分で使われています。特にYTIシステムに絡むからでしょうか、選択肢をクリックする際や劇中の様々なところでSEが使用されており、ちょっと華やかな感じはしました。
▼総評
 残念というよりは、がっかりした。もちろん、勝手な期待も込みの上なので一概に作品が悪いわけではないとは思う。
 チュートリアルの説明を読む限りでは面白そうなYTIシステムだが、実際にプレイしてみると別に面白くもなんともない。体験版という短いシナリオであったためかもしれないが、シナリオやシステムにに影響するところがほとんどなく、実質的にあってもなくても問題ないシステムなのではないかと思う。正解、不正解の選択肢をチョイスすることでどんどん道を切り開いていく(例えば不正解の選択肢を選んだが、その先に出る選択肢によってバッドを回避できたり、正解ルートとは別の新たなルートを目指せたりする)タイプ、さらに過剰に期待したイメージで言えば『YUNO』みたいなものか? なんて思っていましたが、同じ名前でありながらシステム的にできることよりも、シナリオ上で発揮できる効果の方が大きすぎてなんだかもう勝手にシナリオを進めて下さいって感じ。システムとシナリオでプレイヤーをもてあそぶなら、もうちょっと上手くだまして欲しいな。
 シナリオ面については、かなり好き嫌いが出るタイプじゃないかと思う。3編とも主人公が違うので、どれかひとつぐらいは趣味に沿えそうなものはあるんじゃないかな。ただ、それが1回だけじゃなくてループするので、多少は我慢できても最終的にダメとなるかもしれない。

 「YTIシステム」のチュートリアルの最後にこう書かれている。
「――説明を聞かなかったあなたは、このシステムがよく理解できなかった。
それによって、ゲームが進むに連れて徐々に苛立ちが起こり、システム前提で話が広がる身勝手さにうんざりして、とうとうプレイを放棄してしまう。
十分も経たないうちにあなたはゲームの存在すら忘れて、そのまま人生は何事もなく過ぎてゆく……。
そんな未来もあったかもしれない。」


 これはチュートリアル上でいわゆるバッドな選択肢を選んだときに表示される一文だ。おそらく体験版だから、ということもあるかもしれない。もしかしたら、完成版ではものすごくシステムとシナリオがマッチした作品になっているかも知れない。だが、完成しても現状と同じシステムのママなら、自分にとってこの作品は上記の一文のように「ゲームの存在すら忘れて」しまってもかまわない。ゲームを遊び、システムを理解した上での見解だ。

 個人的にはこのゲームを勧めることはないだろうが、ループものに餓えまくっているなら結果は保証しないけど触ってみれば? と勧めてみる程度かな。


 それと、ゲームの冒頭で「18禁」としておきながら、おまけの掛け合いで「全年齢」って言っちゃうのはどうかと思う。いや、年齢制限については別にどっちでもいいんだけど、その統制の取れてなさは評価下げるだけだと思うから。
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