八月のシミュラークル 体験版ver1.0

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http://hachikuru.seesaa.net/

                                 (2010.03.7)
▼あらすじ
夏を前に、終業式という一大イベントを終えた僕は、開放感に身を委ねるように河原で寝そべっていた。
夏休みには実家へと帰ろうかとも思っていたが、両親ともに出張で綺麗に予定が空いてしまっていた。今後の身の振り方を考えていると、小さな女の子が水面をじっと見ている姿が目に映った。一瞬、消えてしまったように見えた少女をなぜか放っておけなかった僕は、川縁に降りて少女に声をかける。声をかけた僕を見て驚くその少女は、葉月と名乗った。
▼概要・システム
 人工の目と耳を持つ少年が、河原で見かけた不思議な女の子を手助けするアドベンチャー。サークルの説明ですと、和やかな子育てノベルゲームだそうです。…………子育て、だと!?
 基本的なシステムは、画面下部にメッセージウィンドウが表示されるタイプのアドベンチャーゲーム。
タイトルメニューは「New Game Start」「Load」「Config」「Exit」の4つ。「New Game Start」は最初からのプレイ。「Load」はセーブしたデータをロードしてプレイ再開。「Config」ではオートプレイのスピード、テキストスピード、サウンドボリュームの変更とウィンドウサイズ(ウィンドウモード/フルスクリーン)の切り替えが可能。ただ、サウンドボリュームのみゲームを終了させると初期設定に戻ってしまうバグがあります。「Exit」はゲーム終了です。
 ゲーム中は、メッセージウィンドウの右側にシステムメニューがあるタイプで、SKIP(メッセージスキップ)、AUTO(オートプレイ)、QS(クイックセーブ)、MEMORY(セーブ/ロード機能)、CONFIG(コンフィグ)、QUIT(ゲーム終了)の6つの機能が実装されている。クイックセーブは4つまでで、セーブするごとにシステムメニューにアイコンが表示される。このアイコンをクリックするとクイックセーブした場所に戻れる(いわゆるクイックロード)。アイコンはなかなか可愛く見たも良い感じなのですが、クリックしても「QS(クイックセーブ)シーンにもどりますか?」という吹き出し型ウィンドウが表示されるだけなので、どこでクイックセーブしたのかが分からないという欠点がある。せっかく吹き出し型のウィンドウを出すのなら、吹き出し型ウィンドウをもう少し大きくして通常のセーブ同様にそのシーンの画像も表示させた方がいいのではないかと思う。あと、QUIT(ゲーム終了)は、タイトル画面に戻るのではなく完全にゲームを終了となる。タイトル画面に戻る方法はないです(クリアすればタイトルに戻るけど)。
 機能的には標準的なものばかりだが、インターフェースのデザインがなかなかしゃれている。システム面は携帯電話を始めとしたデジタルガジェット風のスタイリッシュでクールな感じのデザインでまとめられている。その最たるものがセーブ/ロードで、データをセーブする場所をドラッグして左にスライドするとセーブ、セーブされているデータを右にドラッグしてスライドさせるとロードというギミックになっている。一風変わっていて大変面白いろく気に入ってはいるのだが、初見では非常に分かりにくいインターフェースでドラッグする場所によってはスライドさせるだけの距離が取れずにロードできないこともあり、またドラッグしたままマウスを動かすとロードしたいのに間違ってセーブしてしまう可能性もあるため、少々残念なところがある(セーブ時にはそれほど左にスライドさせなくてもいいのだが、ロード時は結構な距離を右にスライドさせる必要がある。そのため、フルスクリーン時ではロードしづらいこともある)。readmeにセーブ/ロードの操作方法について一筆入れてもいいのではないかと思う。
 なお、一度ゲームを最後までプレイした後に表示される「To be countinue……」をクリックするとタイトル画面に戻れるが、画面が暗くなってしまうというバグがある。ノベルゲームなどでは文字を載せるいわゆるメッセージレイヤが常時表示されている状態で、右クリックを押すとそれが消えて明るくなる(が、なにか出来るわけではない)。別段プレイに障害があるバグじゃないが(とはいえこの状態でプレイを始めると画面は暗いまま)、直してもらえると幸いです。
▼シナリオ・テキスト
 舞台はほんのちょっと先の未来。少なくとも現代よりは先だが、近未来っていう言葉の印象から得られるほど遠い未来でもない。
 主人公はいたって普通の学生だが、幼い頃に目と耳を怪我して機能を失ってしまっている。しかし両親の尽力により、人工的な映像機器や神経機能をインプラントして視覚と聴覚に成功したのだが、その影響からか普通の人とは多少違うものが見えることがある。そんな主人公が出会った少女・葉月は、他人やカメラには写らないものの主人公にだけは見えるという電子的な幽霊のような存在で、デジタル機器に侵入することで主人公以外の人と交流することが可能となる。
 そんな少女を元に戻す、またその正体を明らかにするという物語。ジャンルを分類すると、やっぱりジュブナイル小説ってことになるんだろうと思う。なんかここのところ多いね、ジュブナイルなもの。体験版では、少年と少女の出会いから協力するまでが描かれている。readmeを読むと、これで大体第1章という感じらしいです。全何章になるかはわかりませんが。物語としては非常にありがちだと思いますが、主人公の電子的な目と耳がどう関わっていくかが少し楽しみです。が、楽しみな反面、その特異な視覚と聴覚について普通の視覚と聴覚とどう違うかプレイヤーに伝わるように書けるどうかが、評価の分かれ目になりそうな気もします。
 また、ゲーム中に消えた少女を捜すシーンで行く先を選ぶ場面があるのですが、選択画面になるとセーブ/ロードできないのが不満。体験版ではセーブ/ロードができなくても問題はないのですが、この先もそうなる保証はないので、できればセーブ/ロードできるようにして欲しい。
 テキストは、たまに打ち間違えっぽいところがある程度で特に問題はないと思うが、ちょっと三点リーダーが多い気がする。
▼イラスト・グラフィック
 キャライラストは、ちょっと粗く等身は低め。ロリの2歩ぐらい手前かな。絵柄の粗さは技術というよりも、テイストといった印象を受ける。絵本や児童文学の絵や挿絵っぽいというのが、個人的には一番イメージが近い。塗りの方もちょっと粗めで、水彩画のような感じ。絵柄に合っているので問題はないと思う。登場人物の立ちイラストは、一応全員表情差分がある。一応というのは、やっぱり出番の多いメイン系が多めで、その他系は少なめといった感じ。今後の進行次第で増えていくとは思うが、比率はあまり変わらないかも。現状では一画面のイベントCGはないが、小さなカットインCG(画面の比率から考えると1/4ぐらいの大きさ)がある。
 背景は、おそらく実写にフィルタをかけたもの。時折、これなにもフィルタかけてないんじゃないか? と思える背景もあるけど、たぶんきっと気のせい。
 あとタイトル画面は、水色の空に入道雲が描かれたものなのですが、この入道雲は画像ではなくプログラムなのか雲の形が少しずつ変化しています。スクリーンセーバーとまではいきませんが、環境ソフトみたいに立ち上げておくとちょっとだけ心が安らぎます。
▼サウンド・SE
 曲はすべてフリー素材を使用。3つのサイトから集めてチョイスしているためか、音のクオリティにちょっとバラツキがある。使用している曲は大半が明るい感じの曲なのだが、少しシーンにあってないかなと思えるところも。またどのシーンでもそうなのだが、曲(シーン)の入りのところに無音の箇所があり(少し文字を読み進めた後に曲が鳴り始める感じ)、もうちょっと早く鳴り始めてもいいのになとも思う。SEもいくつか使われているが、それほど多くはない。
▼総評
 絵柄と物語のさわりの感触だと、ほどほどに良い感じのジュブナイル小説になるような気がします。個人的には粗めの絵柄と水彩画のような塗りが好みです。もう少し淡い感じだと嬉しいのですけれども。ただ体験版(序章)ということからか、パンチが弱いので超期待! というよりも、完成したんなら読もうかなぁという感じかしら。何がどうというわけではないのですが、なんか足りない感じもします。
 あと気に入りつつも懸念しているのがシステム面。デザインやギミックには一目置く価値はあるのですが、使い勝手という点から見るとあまりプレイヤーに対して親切ではないような感じです。これ以上捻らなくてもいいので、もう少し利便性や操作性を上げる、またはこのままでもいいから、誰が使っても誤操作しないよう説明を付けるなどといった考慮があってもいいと思います。
 ジュブナイルとか全然OKで、エロがなくてもまったく気にならないよというアドベンチャー、ノベル好きという人向けかな。ただ、サークル公式見解の「和やかな子育てノベルゲーム」という言葉がほんのちょっとだけ気に掛かる。触った感じですと本当の(現実的な)意味でに子育てを扱ったゲームではないので、そこのところだけ一応注意。

 なお、「シミュラークル」とは、単語だけの意味だと「影」「面影」「にせもの」「まがいもの」「模造品」という意味。フランスの思想家、ボードリヤールが提唱した概念としても有名で「複製としてのみ存在し、実体をもたない記号のこと」「オリジナルなきコピー」という意味も持つ(かなり端折った説明)。この概念の元となった文化人類学の用語を紹介すると『ある土地の伝統文化が滅びてしまった後、後世の人間がそれを惜しんで復活させた「まがいもの文化」』という意味があるそうです。様々な理由で完全な復活は敵わず、後世の技術や人の意志が介在することで「a」だったものが「a’」になったようなものなのかな。単語の意味だけでいうとあまり良いイメージじゃないけど、思想的な言葉としての意味である「まがいもの」とは、決してオリジナル至上主義的なものではなく、そもそも比べるようなものじゃない「オリジナルの形を変えた(流用した?)もう一つのオリジナル」みたいなものっぽい。本歌取りというか、我々の一番近いところで言えば二次創作みたいなものというか(笑)。余談にしては長くなっちゃったけど、
 余談としてはずいぶん長くなっちゃったけど、この「まがいもの」「模造品」「オリジナルなきコピー」とは、主人公の目であり耳、そして葉月自身のこと指すダブルミーニングだと思う。まだ完成にはほど遠いとは思うが、どういう形で使われるかは分からないが「シミュラークル」という言葉が持つ意味が物語のキーになるんじゃないかな。「
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