真月の夜
Experiencce Edition For Ricol Lar Leaze

■ENDLESS-BBS
■NScripter
■アドベンチャー
■18禁
■500円ぐらいかな?
http://www.endless-bbs.com/
                                       (2003.03.13)
▼あらすじ
入学式の片づけに駆り出され、帰りの遅れた俺は急いでいた。もっと早く終わる予定が、サボったバカのおかげでこのザマだ。すでに空は暗く、昇った月は不気味なまでに街を照らしている。自慢じゃないが、ウチの母さんは門限とかにはちょっとうるさい。なら手段はこれだけ、だ。家と学園を結ぶショートカットポイント、公園に入り込む。近道とはいえ公園は広く、全力で走っても横切るのに10分はかかる。

そこは、いつもの公園ではなかった。数日前の雨でぬかるんでいて、とても走りにくい。だが、それ以上に異様な雰囲気と、煌々と照る月の光が不安を駆り立てる。そんな気分を紛らわそうと足を止め、周りを見回すと目の端に何かが映った。目をこらした先には、靄のような影と、それを追うひとりの少女。影は――――そう、人の形をした「なにか」は、少女に襲いかかっていた。

対峙する少女の手には、ひと降りの日本刀。何かがぶつかり合うような鋭い金属音が辺りに響く。その音の直後、何かが俺の目の前に落ちてきた。影だ。その影の半身が、うめき声を上げながら俺を睨みつける。見たことありそうで知らないモノ、名前があってないモノ、本能すら拒絶し警告を発するモノ―――バケモノとしか形容できないモノだった。

驚きと恐怖で動けない俺に、半身とは思えぬ速度で喉元に爪を突き立てる。……だが、その爪は届かないどころか、自身の存在すら消されかけていた。目の前に跪く少女の手によって。バケモノを消滅させた少女は、立ち上がり俺を一瞥する。
「貴方…………見えていたの、あれが?」
俺は恐怖した。バケモノに。バケモノをいとも簡単に始末する少女の存在に。体裁もなく後ずさり、絶叫しながら迫る少女を拒否する。そして俺は闇に包まれる。恐怖という記憶を覆う闇と、夢魔と戦い続けるという闇に。
 
▼概要・システム
 初めて触れたのはいつの頃だったか、と遠い目をしてもいいぐらい前から完成していないソフトの体験版。前回のレビューはこちら。今回は、購入するとロムにペーパーにラミカが一枚付いてきました。詳しいことはペーパーに書いてありますので、今回のレビューはこれに書いてあることが大変重宝してたりします。体験版というか未完成版というか、とりあえず1シナリオは最後まで入っています。だいぶ輪廻転生ものっぽい面が増しているような感じ。

 システム周りは、これまでと同様NScripter。奇抜なことはしておらず、ほぼディフォト状態です。
 ゲームのシステムも特に変化なし。演出として、立ちキャラクターのシルエットの表示に手が加えられました。通常時ではブルーかイエローで半透明で、そのキャラクターが話している時には塗りつぶしとなります。ある意味、表情差分の形態のひとつです。以前に比べ、誰が話しているかが分かりやすくはなりましたが、会話が連続する場面では画面がチカチカするので、コレはコレで鬱陶しいです。それに加え、会話をしていないのに塗りつぶしてたりしてチグハグな印象。やるならやるで、徹底的に統一して欲しい
現在、真ん中の人が発言中。こんな感じで差別化されてはいるが、統一が甘い。 数少ない選択肢のひとつ。でも、シナリオには影響がない程度の差しかない。
▼シナリオ・テキスト
 シナリオは完全巻き込まれ型。「クインシー」と「夢魔」の戦っている現場を目撃し、そのまま非日常の世界に巻き込まれていくお話。だいぶ前にアリスから発売された『夜が来る!』に結構似ています。「」で囲われているのはこの世界オリジナルの用語ですので、HPで確認して下さい。その「クインシー」のひとり、リコルのシナリオが最後まで収録されており、残りの4人はさわりぐらいまでです。ゲーム内期間は約2週間。ですが、ちょっと頭をひねるところがあります。ネタバレになるので詳しく書けませんが、2週間というタイムリミットのあるシナリオで、「一週間が過ぎた」というテキストひとつだけで経過日数に加算されてないのは手落ちのような気がします(経過日数は「女の子と一緒にいた日数」という微妙さ)。 前置きはこの辺にして、その最後まで遊べるシナリオについてですが、悪くはないけど微妙、かな。原因はシナリオ的な盛り上がらなさに加え、燃えるシーンがなかったからです。盛り上がらないというのは、ラスボスの方々(五老衆といって5人います)の存在感のなさと日常生活のワンパターンさ、そして緊張感のなさ辺りが原因。燃えるシーンのなさは、ひとえに戦闘システムにあります。
あ、萌えとかは考慮してません。あしからず。

 「ラスボスの存在感のなさ」は、ラスト(もしくはラスト一日前ぐらい)にしか登場しないこと。会話上では「ものすごく強い」「伝説的」「1000斬り」と武勇を誇ってますが、出てきたと思えばすぐ退場なので印象に残りません。そんな凄いボスがザコ引き連れて戦うってのも落胆の一因。ボス一匹に徒党を組んでもボコスカにされる、とかの方が凄さを感じられますしね。
 日常のワンパターンさは、朝→学校→帰宅→特訓→巡回、でほぼ固定されており、伝奇でバトルな部分よりもヒロインとの恋愛に重きが置かれすぎている感じがするからです。ここは好みの問題だと思ってます。
 緊張感のなさは、主人公をたちの危機感のなさ、もしくはそういった描写不足からです。圧倒的不利な状況で迎える、世界の命運を左右する2週間のはずなのですが、主人公たちから緊迫感やら悲壮感とかがまったく感じられません。面識のあるキャラが徐々に戦闘不能になっていく切迫感、序盤にラスボスにボコボコにされる絶望感、そういう演出・描写があってもいいのではと思います。他のシナリオプレイすれば、また別なのかもしれませんけどね。
 「燃えない」理由を戦闘システムとしているのは、ひとえにバランスの問題だと思います。戦闘がシステム化されているため、戦闘シーンのテキストはありません。戦闘によるプレイヤーの印象が、そのまま戦闘のイメージに直結されます。現在のバランスですと、弱い敵には楽勝すぎ、強すぎる敵には瞬殺され、それ以外の敵とはラッキーパンチを恐れながらビクビク戦うという感じです。こんな状態で「血湧き肉躍るような燃える戦闘シーン」というのは、私の中ではあまりイメージできませんでした。個人差はあると思いますが、、戦闘を楽しめずにうざったい障害と感じる人には、致命的な欠点だといえるのではないでしょうか。
 その他の微妙な点といえば、「エスカレーター式の大学とはいえ、大学1年(以上)がセーラー服&学ランってのはどうよ?」とか「世界的な規模を持つくせにそのスケールを感じさせず、戦力的にも戦略的にも至らなさが目立ちすぎる組織ってどうよ?」とかですかね。設定としてちゃんと説明はされてますけど、大学にセーラー服&学ランってのはイメージとして違和感ありすぎだよなぁ……。組織もビルごと吹っ飛ばせよなぁ……。

 テキストは普通だと思いますが、誤字脱字がものすごく多いので覚悟すること。それと1ラインの文字数が統一されていないのが、ちょっと目に付きました。きりのいいところで段を変えている訳ではないため、違和感があります。また、文字ウィンドウは5ラインなのですが、実質的に4ラインしか使用していないため、小さくしてもいいんじゃないかなと思いました(戦闘システムの兼ね合いから5ライン死守なんでしょうけど。左端に戦闘コマンド用ウィンドウを作るとかすれば、高さ的にはちょうどよいイメージなんですけどね)。

 エロはちゃんとあります。結構長いかな。でもごめんなさい。見た目ちっちゃい女の子には興味ありませんので、あんまりエロく感じなかったです。とはいえ、そんなに悪くはない感じでしたので、完成版でのこっち方面は期待してもよろしいんじゃないでしょうか。イベントCGはこんな感じ。
▼イラスト・グラフィック
 キャラクター原画や塗りなどは、ぜんぜん問題ないレベルだと思う。ただ、複数人でやっているためか、出来上がりぐあいに結構バラツキがある。このバラツキ具合はイベントグラフィックなんかも同様なので、最終的には均一されるといいかもしれません。イベントではありませんが、戦闘シーンで必殺技を使うとカットイングラフィックが見られます。ひとり1枚ですけどね。各キャラの表情差分もなかなか多いです。もちろん、ヒロイン級は優遇されてます。背景は全編CG。これも複数人でやっているようです。すべてCGなのは見事なところですが、あんまりレベルは高くありません。全体的にのっぺりとして、平面的な感じです。そしてもうひとつ、というか最大の欠点は、月の満ち欠けがバラバラだということです。『真月の夜』というタイトルの通り、月という存在は作品上大きな意味合いを持っています。ゲーム開始時から満月になるまでの2週間が作品の舞台なのですが、夜の背景に描かれた月の形がバラバラなのです。ある程度は時系列に沿って月が満ちていってるのですが、左で弧を描いていた月が、数日後には右で弧を描いていたりと自然の流れからいってもあり得ない描かれ方をしているのです。イベントCGの月と背景の月の形が違うこともあります。シナリオとして欠かせない月の満ち欠け(このシナリオでは満ちるまで、ですけど)、それを背景でも提示していこうというなら、ちゃんと描いて欲しいですね。 なお、クリア後のおまけ戦闘に勝つとエッチぃCGが見られるそうです。面倒なのでやってませんけど。
ベントCGはこんな感じ。塗りの方も問題ないと思うが、CGによってバラつきあり。 こっちが必殺技のカットイン。諸刃の剣どころか、ピンチへの第一歩です<必殺技
  
▼サウンド・SE
 音楽周りもだいぶバラツキがある感じです。40曲とそれなりに曲数はあるものの、演出の一環だとは思いますが無音のシーンがかなりあります。そのおかげで、だいぶ寂しい感じはしますね。曲については、それほど印象に残る曲はないです。何度も繰り返して聞くはめになる戦闘シーンの曲は、ちょっとだけ残ってます。それを差し引いても、どっかで聞いたことあるような曲が多いような。SEも結構な数が使われているっぽいですが、あまり印象にありません。その中でも戦闘シーンで使われるものについてですが、もっとシャープで重い音を希望したいですね。イメージで申し訳ないですけれど、今のSEはこもったような音で迫力がありません。意外なところでは、タイトル画面の「NewGame」「LoadGame」といったメニューに音声が使われています。クリックすると聞けますが、『グラィウス』のパワーアップのノリです。「Option」とか。
▼総評
 語弊がある言い方をすると「ああ、ゲーム作りたいんだな」という感じを受けるソフトです。全体的に見て悪いところはないゲームではありますが、人に勧められるかと問われれば躊躇するソフトでもあります。
 とにかく、バランスがキツい。私自身がヌルいゲームに慣れすぎたという点は否定しませんが、その辺りを考慮しても難しいゲームだと思います。個々の戦闘においても攻略性がないわけではないが、そんな小賢しい考えはザコのクリティカルヒットに一蹴されてしまいます。もう少し易しめに、せめて最初の戦闘ぐらいは絶対に勝てるようにして、プレイヤーを引き込ませようという風にしてもいいのではないかでしょうか。リアル指向すぎる回復システムも、もうちょっと「ゲーム」寄りにしてもいいのではないかと思う。完成版に向けてバランスの調整は考えているようですが、サポート掲示板などから「この戦闘システムで行くんだ」という強い意志が感じられますので、ある程度の理不尽さを承知した上で購入検討に入った方がよいと思う。その他の点においては、誤字脱字のチェック、グラフィック(塗り具合)の統一or均一化、もっと盛り上がるような演出などが追加変更訂正希望ポイントかな。それ意外は大きな欠点もなく、完成度は比較的高めです。

 完成へ向けてある程度の期待はできるものの、戦闘システムがネックさが二の足を踏む作品。シナリオ面に関していえば、それほど多大な期待をしない方がいい。1シナリオしか遊んでいないのに、ちょっと乱暴だとは思いますけどね。おそらく全シナリオ終了時にすべてが分かるようになっていると思いますが、現時点で他のシナリオを見たいと思わせる力は、あまりない。設定に力を注ぐのもヒロインとの恋愛に力を注ぐのもかまわない。だが、もう少し世界を構築できていたら、もう少し世界の広さを感じさせるテキストがあったらなと思う。プレイしていて感じた世界観は、かなり薄い感じがします。

 次回(というか今日)のサンクリで冬コミ時と同じVerの体験版(コレと同じ)が頒布されるので、興味があるなら試してみてはいかがでしょうか。ですがその前に、戦闘システムに対しての覚悟はしておくこと、ですね。

(注1)理不尽 
レビュー中に何度も登場する「理不尽」。ひとえに戦闘システムについての文句ですが、何故に理不尽かといえば「(戦闘結果に)納得できない」からです。
 なにがどう「納得いかない」かといえば、「RPG(風)のくせに一発死に多すぎ」だからです。アクションゲームとかでよくありますね、一発死に。操作ミスとか突然現れる敵などがよくある「原因」で、集中してプレイするとか地形や敵のパターンを覚えるとか「対処法」はあるものです。ですがこのゲームの戦闘は、基本的に対処方法がありません。HP/MP満タンで(サポート掲示板で提示されている)クリア可能レベルに到達していても、一発死にの可能性が平気で存在しています。
 分かりにくいたとえを挙げるなら『RagnarokOnline』のアサシンやシーフとかですね。完全回避95%だからといって調子に乗ってると、いきなりドでかい攻撃を喰らって瀕死に陥る、とか。敵のクリティカルなんて予想できませんから、どうにもなりません。RPG「風」なくせに、そんな「どうにもならない」ところが勝負の分かれ目になっているシステムに「納得がいかない」のです(いや、RPGじゃないから問題なし、と言われればまったくその通りですけど)。圧倒的な力の前には戦術など木っ端みじん、そういった部分で敵の強大さ表現しようとしているなら、見事にハマってるワケですが。例えば、何ターン目かには必ず必殺技を使うとか、難易度は下がるでしょうけど攻撃パターンを作って「攻略している(攻略させている)」感を出してもいいんじゃないかなぁ。あと回復システムは理不尽じゃないけど、リアルでシビアすぎ。

 だいぶワガママいっているのは分かってますが、これを遊んだ感想を聞いたら、その大半の第一声がシナリオについてじゃなく戦闘についてじゃないのかなぁ。いろんな意味で、ね。
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